正門近くの自転車置き場のところで、後ろから声が聞こえた。
「おーいっ!」
振り返ると、少し離れたところで、くぼっちが大きく手を振っていた。
くぼっちの隣には、くぼっちの彼女もいる。
くぼっちは彼女に手を振ったあと、俺の元に駆け寄ってきた。
「おっはよーん!琉生きゅーんっ」
勢いよく俺の肩を抱いて、くぼっちはニコッと笑う。
「朝からテンション高いな。彼女のこと置いてきてよかったの?」
「心配すんなって。俺らはラブラブなんでっ」
満面の笑みでピースをするくぼっちに、俺は目を細める。
「はいはい。ごちそうさまっす」
「あらー。ヤキモチぃ?」
「うっざ」
俺はくぼっちの手を跳ねのける。
「橘、おまえ……もしかして今日が何の日か忘れてね?」
「いや、くぼっちの手に持ってる箱を見て嫌でも思いだしたよ」
くぼっちの手には、おそらく彼女からもらったであろうハート型のピンクの箱。
「イエーイ!ハッピーバレンタイン!」
「……ハッピーなのは、くぼっちだけな。俺、関係ないし」
「そんなこと言っちゃってぇ!去年のバレンタイン、おまえ何個もらった?俺は忘れてねーぞ?軽く20コはもらってただろ!」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)