お母さんはあたしの腕を掴んだまま離さない。
「お母さん……?いつも飲んでる薬、ちゃんと飲んだ?」
お母さんは、手をゆっくりと離した。
「ごめんね、凜……」
お母さんは寂しげな顔で言った。
「お母さん……寝るわね……」
お母さんはあたしの頭を撫でたあと、布団の上に横になってしまった。
「ゆっくり休んでね、お母さん」
あたしはお母さんの体に布団をかけて、部屋を出る。
――パタン。
大丈夫かな……お母さん。
お母さんは、病院の精神科で毎月、薬をもらっている。
離婚してからずっと、もう何年も薬を飲み続けている。
お母さんに病名は聞いても教えてくれないけど、精神的な病気には間違いない。
それでもあたしを育てるため、薬を飲みながらも一生懸命に働いてくれている。
本当は優しくて、笑顔が可愛らしいお母さんだけど、
たまにこうして、いつものお母さんと違う様子になることがある。
お母さんがこんなふうに病気になったのは、父親のせいだ。
お母さんのつらそうな姿を見るたびに、父親のことが憎くてたまらなくなる。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)