夜の10時過ぎ。
あたしはお風呂上がりに濡れた髪をタオルで乾かしながら、お母さんの部屋の前に立った。
「お母さん?起きてる?」
――コンコン。
お母さんの部屋のドアをノックする。
「起きてるわよ」
部屋の中からお母さんの元気のない声が聞こえた。
――ガチャ。
床に敷いた布団の上で、お母さんは横になっていた。
あたしが布団のそばに座ると、お母さんはゆっくりと起き上がる。
「お母さん、具合悪いんじゃないの?病院行かなくていいの?」
「……平気よ」
仕事で疲れてるのか、お母さんは最近あまり食欲がないみたい。
今日の晩ご飯もほとんど口にしていなかった。
お母さんは昔からただでさえ細い体なのに、最近は前よりもさらに痩せたし、顔色だってよくない。
離婚したときから、お母さんは体調を崩すことが多くなった。
こうして具合が悪くなるのは、いまに始まったことじゃないけど……それでも心配だよ。
「明日から修学旅行よね」
「うん」
「ねぇ、凜……」
「なぁに?お母さん」
「修学旅行、行かなきゃダメ?」
「え……?」
「お母さんのそばにいてくれない?」
お母さんはあたしを見つめる。
お母さんの瞳が……いつもと違う。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)