カバンを持って、ひとり教室を出た。



少し廊下を歩いたところで、声が聞こえる。



「咲下っ」



その声に振り返ると、橘くんが教室のドアのところから顔を出して、あたしに手を振っていた。



「また明日なっ」



橘くんの、その優しい笑顔が好き。



「バイバイっ」



あたしも手を振り返したあとで、廊下を走っていく。



“また明日なっ”



胸の奥があたたかくなる。



あたしが教室を出ていこうが、きっと誰も気になんて留めないのに。



橘くんはこうして気づいてくれる。



そんな小さなことが幸せでうれしかった。