ウィズは出来たてのシチューを木製の器に入れ、スプーンを手に取り、それらを持ってリオルのもとへと行く。

( すみません。夕餉(ゆうげ)はいりません )

彼女はそう言った。それは僕のせいだろう。
悲しい過去を思い出させてしまったのだから。

それでも何か口にしなくては、と思い、彼はシチューを作り始めた。彼が作っている間、リオルはソファに腰掛け、膝に顔を埋めていた。二つのペンダントを、強く握りしめながら。

「リオル、少しでいいから、食べておくれ」

その声に、彼女は顔を上げる。はい、と小さく言い、器とスプーンを受け取った。
ウィズは隣に腰掛け、彼女を見つめる。けれどリオルはシチューを口にしようとはしなかった。

「お姫様から借りた服を、汚してしまいました」

雨の中ずぶ濡れとなり、そして追ってから隠れるために、逃げるために、泥まみれにしてしまった。
今来ているネグリジェは魔法使いが着させたに違いない。

主様にも面倒なことをさせてしまった……。

リオルは伏し目になる。

「大丈夫、僕が洗っておいたから。汚れもきれいにおちたよ」

「すみません……」

ウィズは優しく微笑み、そっと彼女の頭を撫でる。

「気にしないでおくれ。僕は君に〝奴隷〟として過ごしてほしくないんだ。だから周りのことを全て自分がしなければいけないと思わなくていいんだよ。僕のことを〝主〟だなんて思わなくていい。ただの魔法使いとして、見ておくれ」

「……でも」

「初めからいきなり切り替えるなんて無理だと思う。だから、ゆっくりでいい。〝平穏な暮らし〟に慣れ、誰かの〝所有物〟ではなく、いつか一人の〝人間〟として過ごすことができるようになるまで、僕は傍にいるから」

「はい」

この方は本当に、私を〝奴隷〟という言葉から解放したいと願っている方なのだろうか。
それとも、優しさと甘い言葉で惑わし、〝逃げられなく〟するための作戦なのだろうか。