誰もが寝静まった真夜中に、三人は物音を立てずに、窓から外へと出た。
そして心臓が早鐘を打つのも感じないほど必死に、広い屋敷の敷地から出ようと、彼らは走った。

「屋敷の者はすぐに私たちの脱走に気づきました。銃を持ち、彼らは私たちを追ってくる。それでも私たちは追いつかれないように、必死に走り続けました」

けれど、と彼女は言う。

「……私が、つまずいて転けてしまったんです。そして私は、立ち上がることができなかった」

響く怒号。距離を縮める足音。確実に近づいてくる〝死〟に、体が強張り動けなくなる。

「死んでしまってもいいと思っていたくせに、私は怖かったんです」

俯いているせいで、リオルの顔は見えない。
けれど何かを堪えるかのように、唇を噛み締めているのはわかった。

「アゼルが……」

そう言って、口を噤む。声は震えていた。

「……彼が、言ったんです。〝俺が囮になるから、逃げるんだ〟って」

座り込む彼女の頬を優しく撫で、彼は言う。切なげに言う。
次は優しい主に、出会うんだ。と。

「サイが、嫌がる私の手を引っ張りました。その時、咄嗟に彼のペンダントを手に持ったんです」

少年のペンダントを握り、涙を零す少女。彼はもう一人の少年に、笑みを向けた。
そして二人が去る時、彼は彼女に言った。優しく、微笑みながら。

( 大好きだよ、デイジー )

強く握られた手から伝わる、彼の悲しみ。もう一つのペンダントを握り締め、必死に走り続ける彼女。

後方で響いた銃声に、彼ら二人は唇を噛み締めた。