「北の国でのことを、教えてくれないかい?」

彼女を椅子に座らせ、彼もまた、向かい側に腰かける。

「………」

「嫌なのなら、無理にとは言わないよ」

「いえ、大丈夫です」

そう言って、彼女は首から掛けている二つのペンダントに触れた。

「私は、幼いころに両親に捨てられました。北の国では捨て子なんて良くあることです」

街はずれの森に置き去りにされ、戻ってくるはずのない両親を、泣きながら待ち続けていた少女の姿を、彼女は思い出す。

「捨て子は奴隷として引き取られるのが普通なのですが、一人の老婆が、私に手を差し伸べたのです」


( おやおや、泣き疲れただろう。 ほら、おいで )

「彼女は……エルシーは、その森に捨てられた子を守るべく、引き取っていたんです」

そう。彼女が、私を救ってくれた。

「彼女の家には他に三人、私と同じ捨て子がいました。女の子が一人で、男の子が二人。それぞれ名前はシェリー、サイ、アゼルです」

( デイジー。それが貴方の名前よ )

「新しい生活を始める私は名前を捨て、そして彼女は、私に新しい名前をくれました。そして7年ほど、5人で暮らしていたんです」

その7年間は、本当に幸せだった。
悲しむこともなく、そこが北の国であることを忘れてしまうくらい、平和だった。