魔法使いの家に着いたときには、彼女の体はすっかり冷え切っていた。
ドアに背を預け、その場に座り込む。

ふと自分の体を見ると、全体的に汚れているのがわかる。


「・・・借りた服なのに」

洗って返さなければ、と思った矢先、あ、と彼女は己がもうすぐで殺されるということに気づく。

「あの方は、躊躇いなく、私を殺せるのかな」

雨音にかき消されてしまうくらいの声で、呟いた。


彼女(シンデレラ)に似ているその顔を、彼は傷つけることが出来るのだろうか。

「…もしウィズ様が“殺す”選択を取らなければ、それは……私をお姫様と重ねたということ、ね」

そのときは、彼の期待に応えよう。
“シンデレラ”を愛し、傍にいたいという彼の想いを満たすことができるように、私は“彼女”になりましょう。

そうすれば、主が――ウィズ様が、嬉がるから。

そっと、リオルは目を閉じる。


「……また前の主と同じように、私は誰かの“お気に入りの女”となるのね」


頬を伝う涙と共に呟いた言葉は、誰に伝わることもなく、小さく消えた。