偽者お姫様




「魔法使いが、消えた?」

消えてなんていない。
魔法使いは、今此処にいるのに。

リオルはまったく理解が出来なかった。

先ほど怒鳴り声を上げた男は、容姿だけで貴族と分かる。
よく見れば、リオルとウィズを囲っている手前にいるのは、ほとんどが貴族だった。


「魔法使いが姿を消してしまった直後から、その紅い瞳をした黒猫が姿を現したのさ!」

「……この黒猫が、魔法使いに不幸をもたらしたというのですか」

「あぁ、その通りだ」

だからソイツを寄こせ、と男は続けた。

刹那、リオルの中で眠っていた遠い過去の欠片が蘇った。


あぁ、そういうことか。
主様がなぜ人の姿で外に出ず、黒猫に姿を変えていたのか、理由が分かった。

私の国だけでなく、どこの国にでも、欲深い穢れた者はいるんだね。


「あなた達は勘違いをしています」

凛とした声で、彼女は言った。

「勘違いだって?」

その男を含め、周りの貴族たちは眉を寄せる。後ろの方にいた市民たちは、どこか不安そうに、リオルと黒猫を眺めていた。


「魔法使いに不幸をもたらしたのは、あなた達ですよ」


ウィズは、目を見開けた。