大変だ。
早く、街から出ないと。
そう思ったころには、時すでに遅し。
街の人々が、ぞの男の声を聞いてぞろぞろとやって来てしまった。
リオルは何が起こっているのか訳が分からず、未だ座りこんだまま。
「黒い毛色に、紅い瞳。間違いない、アイツだ!」
誰かが、叫んだ。
そして黒猫目掛けて石が飛んだ。
それは一つだけではなく、いくつもの石がウィズに投げつけられる。
「やめて…!」
咄嗟に、リオルがウィズを抱き締めて、庇う。
勢いよく投げつけられた石が体に当たるのを、彼女は耐えた。
そして人々は、石を投げるのをやめる。
「その黒猫を、こっちに渡すんだ。でないと、君が不幸になってしまうよ」
一人の男が、前へ出てリオルに言った。
彼女は首を横に振る。
「どうして、こんなことをするんですか」
渡すまい、と腕に力を込める。そんな彼女の様子を、ウィズは心配そうに見つめた。
「その黒猫のせいで、この街にいた魔法使いが姿を消したんだ。 その不吉を招く黒猫のせいで!」
その怒鳴り声が、辺りに響いた。


