何度も何度も「リオル」と叫び続けたが、全くと言って、彼女の耳には入っていなかった。
ただ何かに脅えているかのような表情(かお)をしながら、無我夢中に走っている。
僕は、街に入ったら駄目なんだ。
人と、会ってしまってはいけない。
もし会ってしまえば――。
胸騒ぎが、ウィズの胸の中を襲う。
僕は、街に入りたくない。人に、会いたくない――。
そんな彼の願いとは裏腹に、リオルは街の入り口へと足を踏み入れてしまった。
「…っ!」
無我夢中に走っていた彼女は、足をつまずかせて、勢いよくその場に倒れ込む。
腕の中からでたウィズは、体制を整えて容易に着地した。
頬や手のひらやにじんわりと痛みが走る。
「……此処は……」
我に返ったリオルは、自分が街中まで来ているということに、ようやく気付いた。
「大丈……」
ウィズが言いかけた、その時。
「黒猫だ!」
男の声が、辺りに響いた。


