音楽のある世界へ(仮題)

リョウと正樹は渋谷の楽器店にいた。

リョウの自宅にはなぜか十数本のギターとベース類、
ピアノにキーボードがある。松田は知っていたが、とくにその理由を聞いたことはない。

「ギター買うの?」と、松田が問いかける。

「いや、瞬のやつがバイト代でギターを買うって言ってたのを思い出したんで、その下見」

「そっか、リョウはギター持ってるもんな」

「いや、俺の使ってるのは全部親父の所有物だけどね」

リョウの表情に若干の不機嫌さが宿ったので、家庭のことに突っ込んで聞くのは拙い気がした。

「瞬は、どんなギター買うのかね」

「ん~まぁ あいつのバイト代で買うなら、たいした機種は買えないだろうなぁ」

「あっそういや、リョウは夏休みなにしてたんだ」

「ん? おれ? ひとり旅だよ」

「えっそうなのか?  そういやなんかちょっと大人っほくなったような」

「おい、気持悪いこというなよ」