俺の言葉に緋狭さんは頷き、玲が悔しそうに頭を掻いた。


「あの台所の雰囲気で…僕も気づけばよかった。しかもパソコンデータがヘブライ語で書かれていたしね」


「レグは、"あるもの"を連れ帰る使命を帯びていた。その探索の助力を、己の魔術の知識と引き替えに、各務翁に求めた。好都合に、各務翁はその類を好いていたらしいな。

だが戦時中、偶然にもその"あるもの"を見つけた各務翁が、それを独占し始めた。それを知ったレグは…結果狂わされ、日本における"権力"によって追放された。


各務翁も狂わされていたのだ。レグのもたらしたある書物によって」


「本? あの…黒の書って奴?」


芹霞の問いに緋狭さんは、首を振った。


「似て非なる暗黒書物。屍食教典儀(ししょくきょうてんぎ)によって」


その単語は、俺の思考をすんなりと整理し始めた。


「各務翁の狂いは、歪んだ愛となり子孫に受け継がれた。結果ソレは、精神と肉体に顕著に出始めたのだ。


その狂いを増長させる為に、"約束の地(カナン)"を構想した。だが彼の力だけでは、願うものが出来ず……レグを呼び寄せることとなった。

その頃のレグは秘密結社に戻ることも出来ず、学界からも追放されていたが、エンジニアとして妻子と共に東京にひっそりと住んでいた。

関東地方の大企業に影響を出した停電。あれに対して公機構にたてついていた処を各務翁が見つけ、レグの条件を呑む形で共に"約束の地(カナン)"を構築した。

此処の宗教色は、レグの思想による。すれば、レグの所属していた闇の秘密結社がどんな類のものかは推し量れるだろう」


つまり、グノーシス主義の、シュブ=ニグラス信仰をしていたのか。


「レグの要望により、各務翁は"輝くトラペゾヘドロン"と呼ばれる…そうだな、式典が行われたあの建物の外壁にあたるものと、"ニトクリスの鏡"と呼ばれる…元老院所有のものを、誰にも悟られずに取り込んだ。その事実がわかったのはつい最近だがな」

「どうしてそれらを?」


「そうだな、坊。各務翁にも思う処があって"約束の地(カナン)"を作ったように、レグにも思う処があったのだ。

それは確執であり固執であり…偏愛だ」