「そんなことより!! あの化け物、召喚成功して飼ってるのか? つーか、飼えるもんなのか? あんな鎖なんかで」
真っ赤な顔の煌は、話を変えようと懸命だ。
「確かに…おかしいね。だとしたら……擬態?」
「ほう、玲。そう思う根拠は?」
「人間を食らうというのは化け物じみていますが、見方を変えれば"食欲"という本能の赴くまま行動しているだけの……人間臭さがある。だとすれば、わざとあの姿で居続ける…或いは居続けさせる必要があったのではないかと」
満足げな緋狭さんの笑いから推し量るに、おそらくそれは正解なのだろう。
「では動く姿が見えない黒山羊…シュブ=ニグラスは……」
「ねえ、櫂。そのシュブ=ニグラスってどんなの?」
「千匹の仔を孕む山羊とされ、一般的に悪魔崇拝者による魔女集会…サバトと呼ばれる饗宴の象徴……グノーシス教…悪魔……」
俺は目を細めた。
「グノーシス教を拡大解釈するならば、創造主が悪神で、神の被造物である人間を"悪"とするのなら…悪魔を崇拝していてもおかしくない」
「櫂が考え込んじゃった。玲くん、グノー…とか判る?」
「お前……腹立たしいくらいに俺には聞かねえよな」
「じゃあ、煌は判るの?」
「……。判らねえけどよ……」
「馬鹿蜜柑……」
「……うっせえ、桜」
「うぷぷぷ」
「その三日月目、何とかしろ!!!」
「あははは。人間は悪である……所謂"性悪説"の立場に立っているのがグノーシス教なんだ。キリスト教の善悪とは逆転の原理をもつ。
エデンの園っていうのがあるだろ? 人間の祖先とされるアダムとイブが、蛇という悪魔に唆されて禁断の林檎を食べてしまい、楽園から追放されてしまう…というものは、グノーシス教においては解釈が違う。
神の拘束から二人を解放し、その真実を知らしめたと天使となる。
パソコンにあった断片的な鏡蛇聖会のデータ集めて見ても、スタンスは変わらないみたいだ。神が故意的に隠蔽している"真実"を、よく知る善の"蛇"によって、染みついた悪を浄化して真実を露わにし、鏡の向こうにある真実の…あるべき姿に還り、完全になろうといったとこだ。
悪魔崇拝…確かにありえない事象ではないね」

