あひるの仔に天使の羽根を



「なあ、煌。"生き神様"は…芹霞の名前呼んでいたんだよな?」


「あ、ああ? あの人食い化け物、せりせりって鳴いてたぞ」


突然話かけられた煌は、少し驚いていた顔をしていたけれど。


「どうしたんだ、櫂?」


「黒の書……ああ、この暗黒生物は……。藤姫の入れ知恵か!!!」


すると、玲が同調したように鳶色の瞳を拡げた。


考えれば、至る所に2ヶ月前に繋がる痕跡はあった。


石の扉、魔方陣。

藤姫の手にした黒の書…死霊秘法。


2ヶ月前。藤姫は詠唱らよって魔方陣から、闇の何かを動かそうとした。


俺がもしその闇そのものを消さねば、一体何が出てきたのか。


闇の眷属であったのなら?


もし可能であればの話だが。


「黒の書によれば、黒山羊は…シュブ=ニグラス? "生き神様"は…せり…ん? それ、せりじゃなくて……」


「てけり・り、てけり・り……ショゴス?」


玲が受けた。


「あ、何となくそれっぽい響き!!!」


「煌!! 同じとこは"り"だけじゃないの!! 無駄に怖がらせないでよ!!!」


芹霞が真っ赤な顔で煌に怒れば、緋狭さんは腹を抱えて笑い出した。


「所詮は駄犬だ、人並を望むな。駄犬も駄犬なりに、いい思いできたのだから、賢しいといえば賢しいのだがな」


「いい思いって?」


「ん? お前が怖がって煌に抱きつ……」


「あ~あ~!!!」


煌が真っ赤な顔で、不自然な大声を出してそれを邪魔した。


「無粋な発情犬だがな」


それである程度のことは推測出来たが、俺の時のように芹霞が煌を拒んでいないことが心苦しかった。


俺だけ……俺の告白は宙に浮いたまま、何処かに流され消えていきそうで。


ああ、今考えるべき事は違うというのに。