あひるの仔に天使の羽根を

 

どうして俺は、芹霞との距離を縮められない?


駄目だ。


一度不安になると、それは何処までも拡がっていく。


俺の心の中にもあるのだろう。


芹霞と同じような、闇に拡がる刻印が。



「それは"邪痕"だ」



止めどない不安の連鎖を止めたのは緋狭さんの声。



「不安と恐怖を糧に拡がりを見せる」


それは誰に向けたものだったのか。



「なんでまた、それが芹霞に?」


暫く黙り込んでいた煌が訊いた。



「選ばれたからだよ」


「何に?」


芹霞の問いに、少し間を置いてから緋狭さんは言った。



「……セツナに」



――どくん。


俺の心臓が嫌な音をたてた。


「それは……誰?」


芹霞の声が震えていて。


「邪痕が蘇ってきているのなら、お前もうっすらとでも思い出しているはずだ。

各務刹那のことを」


――また、刹那様を愛して。


俺は……拳に力を入れた。