あひるの仔に天使の羽根を


「じゃあこの痣は……須臾のせいなのかな?」


ガウンの袖を捲くった芹霞の上腕には、黒い奇妙な痣が広がっていて。


「何だそれは…」


思わず目を見張った俺は芹霞の腕を掴んだ。


ただの痣ではない。凝縮された闇の……瘴気の気配がする。


「……!!?」


芹霞は俺に触れられると、大げさな程烈しい反応を示して、


「ごめ……櫂が触ったら、痣が凄く熱くなって……」


目を細めた俺の手を、玲が外した。


「黒い…まるで樹の様な痣が芹霞の胸を中心に広がっている」


玲は見たのか。

服の下の痣の様子を。


玲は触れたのか。

痣の出来た芹霞の肌に。


ああ。


俺の司る漆黒色の領域を、玲は塗り替えようとしたのか。


芹霞の首筋に残る赤い痣。

それは何処まで拡がっている?


俺が須臾の術に惑わなければ、つくことのなかった痣は。


本当に?


遅かれ早かれ、こんな事態になっていたのではないか?


どうして芹霞は平然としているんだ?


どうして玲に微笑み、俺には強張った作り笑いを見せる?


俺より自然な…玲との空気が、酷く妬ましくて。