「芹霞を殺り損なっているのは判っている。だから一層焦って儀式を進めようとするだろう。饗宴は儀式の一環だ」


「ひ、緋狭姉!? あたしを殺り損なって…って、櫂じゃなかったの!?」


そう声を上げた芹霞に、俺は途端、苛立ちのような怒りを感じて。


「どうして俺がお前を殺さねばならないんだ!!!」


「え? ああ…そうだよね…だけど闇が…」


「闇の力を使えるのは、櫂だけじゃないよ?」


慎重な口調で、玲が芹霞に言った。


「須臾も使える……って、僕君に言ったよね?」


「あ……」


何かに思い当たったのだろう、芹霞は当惑したような表情をして。


俺も口早に続けた。


「樒も久遠も…恐らくは闇の力を操れる。もっと拡げれば、石の扉を開くことが出来る奴らは全て…即ち、旭達もだ」


候補は多数いるけれど、あの時俺から解放された闇の力に対して、俺は反撃を加えたから、例え死ぬに至らなくても何らかの手負い傷はあるはずで。


それを探せば犯人は浮かび上がるだろう。


誰が芹霞に手を出したのか。


腹立たしい事象なのは間違いないけれど、今…それより俺の心を占めているのは、芹霞が俺だと信じたことで。


そんなこと…以前の芹霞だったら、ありえないはずだった。


「櫂じゃなかったんだ……」


玲に言われて初めて気づいて。


「よかった……」


そこまで…俺は信用なかったのか。

そこまで…俺は失墜していたのか。