あひるの仔に天使の羽根を

 

凄いや、緋狭姉。


その怪力に、あたしポカンだよ。


不満気に何か言いたそうな煌を、玲くんはその腕掴んでその先を制した。


「ではまた後で。先に行っています」


そう優雅な物腰で頭を垂らし、だけど乱暴に煌の巨体を引き摺りながら、すたすた建物に向かって歩いてしまった。


まるで、此の場から早く立ち去りたいかのように。


どうしちゃったんだろ、玲くん。




「もういいぞ、芹霞」



不意に緋狭姉の声が届いて。




「男共は追っ払った。


もう怖がってもいい」




そんな言葉に驚いて、思わず緋狭姉の顔を覗き込めば。


にやりとしたような顔の中、慈愛深いきらきらとした黒い瞳があって。



「何年お前の姉をやっていると思っている。

よく頑張ったな、妹」



そう言うから。


優しくそう言ってくるから。



敵わない。



隠してたのに。


我慢していたのに。



「――…っ」



あたしはひっくひっくと嗚咽を漏らして、




「お姉ちゃぁぁぁん!!」




緋狭姉の肩に縋って泣いてしまった。



塞き止めていたものが溢れ出してしまったんだ。