「ひ、緋狭姉!!?」
きりりと見える赤い外套をまとっただけの…最近お気に入りの出で立ちのまま、その顔はいつもと変わらぬにやり顔。
どんな顔でも、匂い立つような美人だ。
須臾より樒より、緋狭姉の方が色気も華やかさもある大輪の華。
緋色の唇が、ゆっくりと笑いを作る。
「な、ななな何で緋狭姉が此処に!!?」
そう声を上げたのは煌だ。
背中に貼り付いている煌の心臓の音が、半端じゃないほど早くなっている。
大丈夫だろうか、と声をかけようとした途端、煌はあたしの背中から一気に飛び退いて、焦り半分恐怖半分……強張った顔を緋狭姉に向けたまま、ざざざと音をたてて遠ざかっていく。
「ほう? 私に何か言われるのかと臆したか? 別に私は気にしていないぞ? 幾ら呼んでも全く応答出来ない情けない姿も慣れてしまったしな。傍観するのもそれはそれで面白い。特に温室のシキジョ……」
「う、うわ!!? やっぱり!!!
黙れ、黙ってくれって、緋狭姉!!!」
突然煌が慌てだして、今度は全力疾走で緋狭姉の元に駆け寄った。
「温室のシキジョ?」
首を捻るあたしに、緋狭姉はただ含みある笑みを浮かべて、
「ああ、匂わない女がな……」
「どわ~!!! やめろやめろ!!!」
一体、何のことなのか。
「ねえ芹霞。僕は一途だからね?」
目の前で、端麗な顔がふわりと…色気満載に微笑んだ。
玲くんは何かを悟ったようだけれど、やはりあたしは判らない。
今更ながら、その色気に負けないように仰け反ったあたしを、
「れ、れれれ玲!!! 俺だって……!!!」
引ったくるようにして煌が叫べば。
「……ほう? で、桜にやられたモノは回復したのか?」
どうして緋狭姉、色々知っているんだろう。
あたしさっぱり意味が判らないや。

