「うまく……いったんだね?」


ゆっくりと確かめるように由香ちゃんは声出した。


「うん。櫂が…須臾の金緑石を外していたのも幸いした」


「流石は……師匠だね。師匠じゃないと出来なかったね。

理性と本能、建前と本音……分離させて制御出来るのは師匠しかいない。堪え性のない如月なら端から無理だ。紫堂の戻りを待てる耐久性ないもの、本能のまま…強姦罪成立だ。

それに…嫌だったんだろう? 如月が神崎に触るということも、如月が…神崎から恐怖されるのも」


「憎まれ役は…僕だけで十分だからね。蔑まれるのも僕は慣れている。だけどあいつ…人が良いから、自ら買って出たんだ」


どんなに煌は辛かっただろう。


好きな女が、自分の名前を求めて助けを呼んでいるのに、それがどんな場面なのか判っているのに、あいつはドアに鍵をかけて、僕に協力したんだ。


ぎりぎりまで櫂を追い詰めて。


"櫂"を揺さぶるために。


芹霞が櫂の名前を呼ぶその時まで、櫂を抑える為に。


煌にだって判っている。


紫堂も煌や桜にも、必要なのは櫂だ。


僕には櫂の代わりは出来ない。


そして僕にも櫂という存在は不可欠だから。


僕達は、櫂以外の存在に傅(かしず)くつもりはない。


僕達は、櫂を諦めるつもりはない。


その為に――

芹霞を利用するしかなかった。


だけど――


「僕はね……確かに櫂を元に戻したかったけれど、芹霞と付き合いたい気持ちは…愛し合いたい気持ちは……嘘じゃなかったんだよ。決して……ね」


もう……遅すぎる僕の懺悔。


「決して……演技じゃなかったんだ」


本気だったんだ。


「愛して貰いたかったよ……?」