あひるの仔に天使の羽根を



玲くんが――

恐い。


切実すぎる表情が恐い。


しかし逃げたはずなのに、玲くんはもう目の前に居て、あたしの腕を掴んだ。


「ねえ、芹霞。どうして逃げるの?」


苦しそうな端麗な顔。



「僕達、"恋人"なんだよ?」



作られた微笑みは、優しさではなく…どこか歪んでいて。


「あ、あたし…別の部屋で寝るから、玲くんにこの部屋あげる」


あたし今、ここから逃げ出したほうがいい。


キケンダ。


しかし。


「……開かない!!?」


がちゃがちゃドアノブを回しても、ドアが開かない。


中から施錠が出来ないのなら、外から鍵かかってるの!?



「ねえ芹霞……」



妖艶すぎる微笑。濡れた鳶色の瞳。


雄の色気に魅縛されたあたしの世界は、低速度(スローモーション)で動く。


伸びる玲くんの腕。


ドアにぶつかるあたしの身体。


あたしと同じ石鹸の香りがする、酷く熱い身体が密着する。


悩ましげにも思える…苦悶を浮かべた端麗な顔が近づいてきて。



「愛してる」



あたしの唇は玲くんに奪われた。