「僕が"僕"を押し殺すことで恋愛の終局を招くというのなら、僕は絶対君に"僕"を押し殺さない。
"僕"が求めるままに、僕は行くよ」
真摯な端麗な顔。
「僕は君が好きだ」
いつもの柔和な色は何もなく、剥き出しのような恐いくらいの面差し。
あたしは、魅せられたように動けなくて。
「芹霞。理由がなんであれ、きっかけが何であれ、君は僕の恋人なんだ。
絶対終わりになんかさせない」
そういうと、あたしの頬に手を添えて。
その手は、表情とは裏腹に少し震えていて。
「芹霞と愛し合いたい。
芹霞に求められたい。
例え……何を犠牲にしても」
そう言った。
熱に浮かされたような、掠れた声で。
「まだ何も始まっていないというのなら、始まらせる。
今――此処から」
濡れたように潤んだ鳶色の瞳。
揺らめいて揺らめいて。
いつもにない、何かの強い意志を感じて。
あたしは――
跳ねる心臓抱えて、立ち上がった。
あたしの許容量を遙かに超越していた。
ほろ酔い玲くんの会話の先にあるのがこんな結末だと判っていたのなら、あたしは恋愛話なんて振ることはなかった。
嬉しいとか哀しいとか、もうそんな感情を超えてただ狼狽える。
頭の中に浮かぶ言葉は、
"どうしよう"
だから――
「れ、玲、酔ってるね? 少し寝てきたら? そして櫂のこと相談しよう」
この甘ったるい空気を変えないと。
櫂のことを考えないと。

