あひるの仔に天使の羽根を

 
「初対面の時のような気持ち悪い笑い方して、心隠してきたんでしょう? 言いたいことも言わず我慢ばかりして、相手に合わせて」


「…気持ち悪いって言うのは、君だけなんだけどね」


そう文句を言いながらも、玲くんは何故か嬉しそうで。


「ええ!!? あれは、蒼生ちゃんの笑い方並みに酷いよ?」


そう顔を歪ませば、玲くんは益々嬉しそうに爆笑した。 


「笑い事じゃないよ、あたし当時随分櫂に怒ったもの。"玲くんを殺す気か"って。今すぐなんとかしないともう口利かないって」


「ははは。そういえば、櫂…焦っていた時期があったけど、そうかそれが原因だったのか。それで僕に……くくく」


だから笑い事じゃないのに。

玲くんは何か思い当たるフシがあるらしく、大爆笑だ。


「玲。話はそこじゃなくて、そういう気持ち悪い笑いをまだしてたっていう処が問題でね? そうさせたままの女達もどうかと思うけれど、皆同じ言葉で去っていくというのなら、」


"貴方は私を見てくれないのね"


「それはきっと…追いかけて貰いたい、女の子達の"賭け"だと思うよ?」


玲くん、いつも儚げで、いつ消えてしまうか判らない不安がある。

それじゃなくても、色気満載の美形だ。

捕縛しておかなきゃ誰かに奪われるという焦りが彼との温度差を生み、そして自らが安心したいが為に、試すようなことを言って玲くんの気持ちを確かめようとして…自滅したんだろう。


逆に言えば、試さねば玲くんの真意が判らない程、玲くんは心を見せていなかったということで、更には彼女達も本当の"玲くん"が判っていなかったということ。


何て嘆かわしいこと。


「早く玲が…本気で追いかけて留めて置きたい女の子が現れればいいね」


"玲くん"が満たされるような、そんな子が。


すると玲くんは微笑んだ。


「いるんだよ?」



どこまでも苦しげに。



「ずっとずっと前からね」



真っ直ぐの瞳にあたしが映る。



「僕は思い知ったんだ。

君の代わりは誰にも出来ない。


だから今――…

僕に彼女はいないんだよ?」



あたしだけが映っている。