「ええと…煌が護衛役になった後で……7年くらい前?」


「7年か…。芹霞は10歳、僕は13歳。ははは、僕ロリコンかよ」


玲くん、ぶつぶつ何を言い出して、笑っているんだろう。


「思えば色々あったね。基本家にいるばかりの僕とは、櫂や煌程君には接点なかっただろうけれど、何だかんだと君達の行事には桜と行ってた。学園祭、体育祭、入学式、卒業式……。櫂や煌が居れば、あいつらの意思に関わらず、イベントは静かに終わった試しなかったけれどね」


玲くんが妙に感慨深く言ってきたから、あたしの顔も自然と綻ぶ。


「そうそう。特に女子の歓声!! 普段でも凄いのに、玲がくれば倍増。しかも桜ちゃんも異常にマニア受けしてるしさ。更に紫堂を狙う不届き者か出てきたり、あたし拉致られるし、もうてんやわんや」


玲くんと桜ちゃんを、外部公開する学校の行事に連れたのは、いつも紫堂の仕事ばかりしている2人の気晴らしを兼ねてという櫂の配慮があった。


あの頃と比べて、玲くんの優しさは変わりないけれど、それでもあたしに何か一線を引いていて、今程の触れ合いもなかったように思う。


玲くんが緋狭姉の元弟子で、あたしと意外な繋がりがあったのには驚いたけれど、『電脳オタク』だろうが『女の鑑(かがみ)』だろうが、やはりあたしにとって謎だらけの玲くんは櫂のもので、あえて深く追及しなくても、彼が当初のような気味悪い笑いをしなくなっただけでも十分だったわけで。


玲くんを掘り下げるということは、"紫堂"に接触する気がしていた。


それは、櫂や煌に対するものと同じ…あたしからは踏み込んではいけない領域だと思ったから。


そして、その領域が多分玲くんを苦しませていたもので。


そこから出て唯の"玲くん"であたしに接してくれようとしているのが判る今、だからこそあたしは前より彼に懐いていると思う。


2ヶ月間の入院生活。


紫堂とは無関係のあたしに付き添ってくれたということが、心苦しく思う反面、凄く嬉しかったから。


耐えて忍んでばかりいる深い闇が払拭出来るのなら、"玲くん"がどんな激情の人であろうとも、例えこの上ない極悪人であっても構わない。


それくらい、初対面時の彼の笑いは気味が悪いものだったから。