何度熱いお湯を浴びても、温まることが出来なくて、あたしは仕方がなくもうあがることにした。


いつも風呂上りは半袖Tシャツとハーフパンツでいるあたし。


なぜそんなのが既に用意されているのか判らないけれど、それを着用するには寒い気がして、適当に戸棚を漁れば…


「これなら大丈夫かな?」


長袖で裾丈の長い、白いネグリジェ。


緋狭姉が好きそうな扇情的なスケスケでないのには安心したけれど、あたしの体型より少し大きいのか、全体的に肩からずり落ち気味になってしまうのが残念だが、ガウンなんていうものを羽織れば誤魔化せるだろう。


うん、これなら何とか気味悪い痕は見えないし。


風呂より服に暖を求めるなんて、おかしな話だけれど。


部屋に戻れば玲くんはまだ居て、テレビの番組を忙しく変えている。


リモコン無くてもいいのは流石だけど、いつものような落ち着きがない。


しかもビール缶が増えているし。


「ねえ、玲くん。何かあったの?」


良からぬ予感に溜まらず声をかけたあたしだが、あたしを見るなり飲みかけのビールを噴出して、ぶほぶほ咽(む)せ返ってしまった。


「なななな、何それ、何でそれ!!?」


玲くん、何を言いたいのか判らないよ。


でもやっぱり咽せて苦しそうだから、ベッドに上って後方から玲くんの背中を摩ってあげる。


無駄なお肉がまるでない、正真正銘男の人の背中だ。


これで女装すれば完璧女にしか思えないなんて、ありえないよね。


最初身を捩るようにあたしの動きを制していた真っ赤な玲くんも、やがて観念したのか抵抗をしなくなり、次第に咳も落ち着いてきた。


「なんか玲くん、いつもの玲くんらしくないね」


あたしは笑いながら、玲くんの隣に腰掛けた。



「また、"くん"!!」


長年の慣れというのは矯正し辛い。


玲くんの端麗な顔が、子供のようにむくれた。