浴槽のお湯に浸かりながら考える。
あたし、ほのぼのとお風呂に入っていていいんだろうか。
桜ちゃん大丈夫だったかな。
煌は元気になったろうか。
あたしは久遠と昔会ったことあるんだろうか。
そして――
櫂は今、どうしているんだろう。
朝までに何とかしないと、櫂は此処に須臾といることになるっていうのに、玲くん……あんなにのんびりしていていいんだろうか。
あたしが寝ていた間に、櫂は元に戻ったんだろうか。
元に戻ったのなら――
「!!!」
駄目だ。
あの漆黒色の瞳を思い返すだけでも怖い。
櫂が元に戻ったとしても、あたしの恐怖は元に戻らない。
あたしは櫂と離れるって決めたんだ。
だけど、恐怖を最後にっていうのは釈然としない。
だけど……。
あたしは両手でお湯を掬って、顔にそれをばしゃばしゃとかけた。
そして息をついた時……目を見張った。
「な、何!!?」
あたしの胸に刻まれた、奇妙な黒い闇の痕跡が…上腕にまで伸びていたから。
慌てて自分の胸を見れば、明らかにそれは傷のある心臓を中心に、触手のように全体的に拡がっていて…まるで1つの樹のようにも見える幾何学模様は、あたしを覆いつくそうとしているように見えて。
闇に侵食される。
頭や身体を洗っていた時、玲くんの色気にあたってぼんやりしていたあたしはそれに気づかず、ようやく今気づいた。
これ、どこまで拡がるつもりなんだろう。
拡がったその最果てに、何が待ち受けているんだろう。
気味悪い。
そして、怖い。

