僅かに櫂の表情が崩れたような気もしたけれど、


置かれているあたし達の関係がどうこう言う以前に、


あたしは――


櫂の闇が恐かった。


恐怖が身に刻まれて。


漆黒色が視界に入るだけでも、反射的に震えが起きて。


多分。


誰も彼もが気づいただろう。


あたしの尋常ではない震えと、櫂への激しい拒絶を。


あたしは――


「玲、お願い。桜ちゃんを回復させて?」


笑顔を玲くんに向け、


「本当、久遠はあてになんない。玲がいてくれてよかった!!!」


久遠にあかんべをして、恐怖を紛らわすことしか出来なくて。


このまま遠ざかって欲しいと、切に願っていた。


「なあ……芹霞?」


それでも見逃さなかった漆黒色の気配。


後方から、肩に置かれた躊躇いがちな櫂の手に。


「いやあああああ」


あたしは声を上げて、傍に居た久遠に抱きついた。


「せり?」


そんなあたしを引き剥がして、真向かいに立たせたのは漆黒色で。


「芹霞……?」


揺らぐ漆黒の瞳に、闇がざわついた気がした。


脳裏に蘇る、漆黒の大蛇。


あたしに向けられた殺意。


恐い、恐い、恐い!!!


助けて、助けて、助けて!!!


――僕を呼んでくれる?


「玲、玲、玲~!!!」


あたしは狂ったように、その名を呼ぶ。


途端温かい温もりに包まれる。


「芹霞!!? どうした…一体」


優しい声にも、あたしの恐怖は薄らぐことなく。


「玲、玲!!! 


傍に居て、恐い恐いのー!!!」



あたしの心は恐怖に堪えきれず

破裂して――


意識を飛ばした。