思わず自分の手を見てしまった時、
「此の地では、登録さえされていれば"KANAN"の格闘ゲームを模した特異な力が使える。"火"、"水"、"風"、"雷"、"地"…それは機械がランダムに割り当て、力の強弱関係は従来通りだ」
「…相克?」
火は水に弱く、水は雷に弱く、雷は地に弱く、地は風に弱く、風は火に弱い。
だから俺は、黄色い"地"に勝り、玲は水色の"水"に勝ったのか。
黄色に強く赤色に弱い俺と、水色に強く黄色に弱い俺。
それ以外は、潜在的な力の威力が関係するなら、俺達が負けるわけはない。
「…総当たり戦の格闘ゲーム、そのものだよ」
玲の嘲るような声が響く。
力が尽きた者は、今度は己の肉体を武器に挑んでくる。
その目は正気を失い、血だけを求めて……まるで狂戦士(バーサーカー)だ。
俺達は被害を最小限に留めているのに、相手を肉片にすることを愉しんでいる極度の加虐趣向の奴もいる。
絶叫と狂喜と真紅色と……それは混沌(カオス)。
肉弾戦でも、その光景は変わることなく。
魔方陣の力を弾き、地面すら崩すような…素人とは思えない威力はあるのに、不安定で…防御すら取れない、攻撃のみの危うい型を見れば、闘い慣れていないことは一目瞭然で。
隙を狙って急所を一突きしていけば、暗殺者相手にするよりも遙かに容易くばたばた崩れる。
何処から溢れるのか膨れあがる数を相手にしても、俺達は傷つくことなく、動じることなく、息すら乱すことなく、ただひたすらその数を正確に減じていく。
俺の背後にいる玲は。
実戦から遠ざかり、諜報ばかり担当していたとはいっても、昔通りの見惚れる程の優雅な体術で。
初めて手合わせした時、その舞うような美しい姿に憧れ、密かに目標にしていたことは口に出していない事実。
変わらない玲がそこに居て。
俺の背中を任せられる玲が居て。
そして俺に背中を任せる玲が居て。
それが――
「お前……何笑っているのさ」
信頼関係が戻ったようで嬉しくて。
ああ……このまま玲とも一緒に居たいな。
それは明日からは叶わない。

