「会い……た…い」
俺は石を握りしめ、思わず声を漏らす。
最後だから。
最後に少しだけで良いから。
想いは俺を突き動かす。
俺は立ち上がり――
芹霞の部屋に赴いた。
緊張する。
第一声をどうすればいい?
凄く緊張する。
俺は深呼吸を繰り返し、必死に心を落ち着かせる。
まるで――
子供に還ったようだ。
何処かで経験したような光景のようだと、ぼんやりとした頭が認識したけれど、今はそれを追及するよりも早く芹霞に会いたくて。
覚悟を決めてノックをして、返事を待たずにドアを開けば
「……何?」
出迎えたのは、鳶色の瞳。
当然のようにベッドに腰掛けている玲が居る。
その事実に胸が痛んだけれど、遠坂と見知らぬ女も一緒だったのが、幾分その痛みを和らげた。
芹霞はいなかった。
玲の膝に置かれたパソコン。
床に散乱した、何かの手書きのメモ。
遠坂の手にあるのは、旭から渡された軍事手帳。
見知らぬ女が持っているのは、手帳に挟まっていた謎の紙。
俺の記憶は鮮明にあるのに、須臾との思い出については曖昧だ。
俺は"今までずっと須臾が好きだった"という過去しか持ち合わせていない……その記憶の不明瞭さに、今更ながら愕然とする。

