須臾が出て行った音がする。
誰も居ない部屋の中、俺は項垂れてソファに座っていて。
手の平には、須臾から渡された芹霞の石。
――儀式は早朝、もう嫌とは言わせない。
了承してまで取り返した俺の石。
どうしても俺はそれが欲しかった。
俺は――
胸にある金緑石を外した。
今だけ。
今だけで良いから。
俺の心の中には――
芹霞だけでいたい。
芹霞1人を想わせて欲しい。
明日からはちゃんと今まで通り、須臾だけを想うから。
ずっとずっと須臾だけを想って生きるから。
今だけは、最低男でいさせて欲しい。
俺は石に……唇を寄せる。
「――…っ」
自然に――
頬に涙が伝わった。
同時に涌き起こる、妙な既視感。
以前もこういう風に、石を愛でた記憶があるような。
それとも――
俺が愛でたのは……芹霞…?

