あひるの仔に天使の羽根を



「もう貴方には、私しかいなくなったの。

みんなみんな…貴方を見捨てたの」


"見捨てた"


胸に突き刺さる、辛辣すぎる須臾の言葉。


俺は優しい須臾に此処まで言わせてしまった。


それとも……


須臾は元々こういう言葉を使う女だったのか?


頭が混乱して、益々思考が曇っていく。


「だけど私は傍にいるわよ?

ずっとずっと愛し続けるわ」


それは、凶言のような愛の囁き。


まるで呪言のような熱情。



ノガレラレナイ。



俺はその…愛という名の枷に縛られて。



「……須臾」



俺は静かに言った。




「俺はお前を――


……裏切らないよ」



愛の言葉が口から出なくなった自分に蒼然として。


考えて考えて。


そんな言葉しか、思い浮かべられないとは。


須臾との愛を全うしたい為だけに、俺は皆を切り捨てた。


今更。


須臾を諦めて、皆の元に…芹霞の元に帰りたいなんて、そんな調子の良すぎることを言えるわけないだろう?



それならば。



「俺はずっとお前の傍にいる」



俺は心を閉じて、人形のように生きよう。


たとえもう笑えなくなっても。



思い出だけを糧に。



俺に残されたのは――


昔の思い出、しかないのだから。