あひるの仔に天使の羽根を


「あんな女なんか!!! 私に敵意を見せるあの性悪女に誑かされないで!!! あの女は、色々な男に色目使っているのよ、いい加減目を覚ましてよ!!!」


俺はすっと目を細める。


"あんな女"



仮に須臾の言うことが真実だとして。


芹霞が性悪女だとして。


あいつは須臾のことを、悪く言ったことがあったか?


――バイバイ。


最後の最後まで、あいつは須臾のことを詰ったことがあったか?


あいつは――

いつでも――


俺の意見を許容して、無理にでも笑っていなかったか。


散々冷たくあたった俺に、何1つ責めることなく。



そう思えば――


誰が性悪だ?



すうっと――

心が冷えた気がした。



何故皆が須臾のよさを理解できないのかと煩悶したけれど、俺の方が須臾をよく理解できていなかったのではないか?


俺は――


この先、本当に須臾と生きれるのか?



それは今更、もってはいけない疑念で。



本当に、"今更"過ぎて。



「もう遅いわよ、櫂」



須臾が口角を吊り上げて笑う。