あひるの仔に天使の羽根を



俺が――紫堂に拘る意味?


思考がぶれる。



俺が紫堂に拘るのは、須臾の為に。


だけど。


須臾との初めての出会いはいつだ?


何故か――


思い出せない…?



そんな狼狽する俺のことなど眼中にないように、玲は愛しげな眼差しを芹霞に投げていて。


俺は――佇むしか出来なかった。


無情に閉まるドアが、玲が俺を弾き出したことを再認識させる。


玲は――俺を見限ったのか。


見限って……俺から離れたのか。


芹霞を連れて。



俺は――



玲に何も言う権利がない。


紫堂を棄てると言い出したのは、その覚悟を決めたのは俺。


芹霞が疎ましいと、玲に突き出したのは俺。



玲は何度も言ったじゃないか。


こうなる前に、幾度も俺にぶつかってきたじゃないか。


それを振り払ったのは俺だ。


須臾を選んだのは俺だ。


それだけではない。


俺は、煌の信頼も失ってしまった。


自分の為に友の信頼を裏切り、最悪な状況だけを与えた。


桜は――それを見ていた。


ただじっと、詰るような眼差しで。


動かなかったのは、俺が縛り付けた"義務"故に。


ただ、それだけだ。