そして暫しの沈黙の後、桜がこちらを見ずして言った。


「煌……。櫂様と玲様を恨むな」



俺は――


悶々としていた心が、少しだけ和らいでいる事実を悟る。


鬼ごっこをしたせいだろうか。


もしかして。


こいつなりに慰めてくれていたんだろうか。


「選ぶのは芹霞さんだ。

選ばれたいのなら――

どんな状況においても諦めるな」


俺は面食らう。


今までの桜なら、絶対諦めろと言ったはずだ。


「どうした……桜?」


しかしそれに返答はなく。


「てめえはしぶとさ以外の取り柄がねえ。なら唯一のその取り柄で、せいぜい足掻いてみろよ」


依然口は悪いけれど、そこに優しさを感じるのは何故だ?


「当然だ。芹霞が誰のものになっても俺の気持ちは変わらねえ。虎視眈々といつまでもしぶとく、芹霞を狙ってやるさ」


半分――虚勢だけれど。


口に出したら、少しだけ――

モチベーションが上がった気がした。


一方通行であろうと何だろうと、

俺の想いは揺るぎないのなら。


せめて俺らしくどこまでも執拗に。


少し――気が楽になった。


俺の想いが終わったわけじゃねえ。


終わる時は――この身が朽ち果てる時だ。


なあ――…


お前が今、誰を選ぼうとも。


想うくらいは許されるよな、芹霞?