あひるの仔に天使の羽根を

 

いつもの…受容を拒否するような虚無感ではなく、それはあたしに対する"嫌悪"の情にも似た、はっきりとした彼の攻撃的な感情。


久遠は櫂を敵とみなしている。


櫂でさえも、底冷えしそうな瑠璃色の瞳から逃れることは出来ず、あの櫂が久遠に捕縛されて動けない。


どくん。


あたしの中の陽斗が、異変を感じた。



やばい。



警鐘のように鳴り狂う鼓動は、久遠の言葉をかき消し――



変わる。


瑠璃色の瞳が、紅紫色へと。


あの赤色は。


櫂に向けられたあの赤色は危険だ。


紅紫色から、危殆の孕んだ真紅色に変わる。


瞬間、あたしの脳裏に何かの残像が蘇る。


――せり!!


それを覆って隠そうとするあたしの意識の中、



櫂が――


苦痛に顔を歪ませ、そして切れ長の目を見開いた。



いけない。



駄目だ。


櫂の身体が、あの目の色に変わってしまう!!



「やめて、久遠!!!」



あたしの声が須臾の声と重なった。


気づけば。


櫂の前で、玲くんと桜ちゃんが久遠を床に抑えつけていて。



そして――



「何なの…騒がしい」



見知らぬ女が部屋に入ってきた。