あひるの仔に天使の羽根を

 


こんな切ない表情をする玲くんは見たことはなく。


「僕は芹霞を渡さないッッッ!!!」


こんな烈しい玲くんを見たことがなく。



……この人は誰?



玲くんはいつも優しくて。

玲くんは少し意地悪で。

玲くんはいつも我慢していて。



だからあたしは、"玲くん"を解放してあげたくて。


全ての諦めと我慢を捨て去り、"玲くん"の思い通りにさせて上げたくて。


昔からずっとそればかりを望んでいた。


あたしは判っていたの?


"玲くん"はどんな人?



「僕だって、芹霞が好きで好きで溜まらないんだよッッッ!!!」



感情を露わにして明確な輪郭を持って、自らを主張するこの"男"は……"玲くん"以外にはありえない。



あたしは――

どうしたらいい?


煌を思えば、玲くんの咆吼が頭に響き。

玲くんを思えば、煌の慟哭が頭に響いて。


混乱が混乱を招き、あたしはただ馬鹿みたいに涙を流すばかりで。


「行かないで…お願いだから……僕の処にいて」


あたしを煌の元に行かせないというように、きつくあたしを抱きしめる玲くんの身体は小刻みに震えている。


あたしは煌は好きだけど、玲くんだって好きだ。


それは恋愛感情ではないにしても、優しい玲くんを突き放すことは出来ない。


あたしは、玲くんを振り払って出て行くことは出来なくて。


あたしは――


皆を傷つけたくはないのに。

皆に笑っていて欲しいのに。


"付き合う"ってこういうことなの?


皆を傷つけるってことなの?


恋愛って、こんなに苦しいものなの?