あひるの仔に天使の羽根を

 
あたしと玲くんは、想い合って付き合っているわけではない。


だから少なくとも、煌が思い描いている"付き合い"ではない。


言わば目的の為に手を結んだ、偽装恋人。


櫂を元に戻したいが為だけの…期間限定で"付き合う"事実を、櫂と須臾がいるこの場所で煌に告げるわけにはいかず。


目の前で煌が壊れていく。


そこまで。


そこまで想われていると思っていなかったあたしは、煌にかける言葉が思いつかず、ただ馬鹿みたいに突っ立っていることしか出来なくて。


あたしに向けて伸ばされた煌の手は宙に浮いたまま。


突き刺さる須臾と櫂の視線。



あたしは――

煌の手は取れない。



「芹霞、来いよッッッ!!!!」


その心を穿つような絶叫に、あたしの防波堤は瓦解しそうになった。


煌をこんなに傷つかせてまで、あたしは櫂を戻さないといけないの?


戻った処で、櫂はあたしの櫂にはならないのに。


目の前で煌が泣いている。


大好きな煌が泣いている。



もう――
あたしには耐えられない。



そんな時、玲くんが叫んだ。



「頼むから、引いてくれッッッ!!!」



玲くんだって辛い。


すべては櫂を取り戻す為なんだ。


あたし達は煌を傷つけたいわけではない。


煌のあんな激しく傷ついた叫びを聞いて、平気でなんかいられない。