"付き合う"を意識すれば、手を握ったり呼び捨てにすることさえも妙に気恥ずかしく、必要以上にちらちら玲くんを見てしまったけれど、流石余裕の玲くんは、その度に柔らかな笑顔を見せる。
何だかいつも以上に綺麗な笑顔で、不覚にも胸の鼓動が早まったりしたけれど、1つだけ確実に言えるとしたら。
玲くんという"彼氏"は、やっぱりあたしには勿体ない人だ。
あたしは今、人生で貴重な体験をしているのかもしれない。
少しピンクがかった頭で、部屋に入った時。
尋常ならぬ空気に立ち竦んでしまった。
煌――だ。
「芹霞、なあ…違うよな、お前…玲を選んでねえよな?」
覚悟の上とはいえ、正直煌がここまで乱れるとは思っていなかった。
だけど事実がどうであれ、あたしは櫂と須臾の前で宣告しないといけない。
宣言して初めて、櫂が元に戻る可能性が出る。
目の前の煌の表情に、身が切り裂かれるような思いを抱えながら、煌にとって残酷な言葉を口にした。
煌は綻び始める。
"付き合う"という行為は、あたしが思っている以上に煌にとっては特別な意味があり……煌はあえて言わなかっただけで、あたしにそれを望んでいたことを知る。
あたしは玲くんに、煌とはこの先何も進展はないだろうと言ったけれど、それでもあたしの中で何かが動きだす気配は感じていた。
何も感じない相手に、自分で唇にキスするような不埒な女でもないし、余裕ぶるほどの経験(スキル)なんか全くない。
ではそれが恋愛感情故かと聞かれれば酷く返答に窮するし、その感情の先に"付き合う"行為があるかと問われれば、今時点あたしは完全否定するだろう。
判らないんだ、恋愛というものが。
判らないんだ、自分の心というものが。

