あひるの仔に天使の羽根を

 


背中が大きく開けられた白い服。


左の肩甲骨辺りから生えた、白い異物。


ふさふさとした羽根が目の前で柔らかに揺れる。


見事なまでのリアルさ。


本物――か?

偽物――か?


真贋見極めれない俺も、思わず息を飲む。


飾り――か?


そうに違いない。


羽根飾りなど、何処にでもある。


此処にはコスプレ好きな女もいる。


きっと遠坂の仕業に違いない。


右側に毟り取られたような羽根の名残があるのも、遠坂の拘りに違いない。


現実主義に徹しようとした俺だったが、そうもいかないのが現実で。


「きゃははははは」


突然月の邪気のない笑い声が響き渡った。


「お姉ちゃんくすぐったい~」


どうやら芹霞はその羽根を触っているようだ。


やがて、月の声が泣き声に変わる。


「うわーん、お姉ちゃん、痛いよ~」


今度は引っ張っているようだ。


そして暫しの沈黙。


芹霞の動きは完全に固まり、どすんと尻餅をついて。


そのままの姿勢でずさささと、後ろ側に居る俺達の元に移動してきて、



「○※△□/◎ッ!?!」


涙目で言葉にならない声を上げ、月を指差した。


それだけで、その翼が真実のものだったと訴える。


雰囲気から窺い見るに――


月の翼に今気づいたのは、俺と芹霞だけで。


他の皆は既に承知していた事実だったらしい。


実に複雑そうに、俺と芹霞を見ている。


この少女は一体――?


そう訝った時、


「ああよかった。

気がついたんですね?」


大人びた口調の――


月と瓜2つの顔をした子供が、部屋の入り口でにっこりと笑った。