あひるの仔に天使の羽根を

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「ところで玲くん……」


"くん"


僕はあえて無視をした。


「玲くん……?」


芹霞が心配そうな顔を向けてくる。


「ねえ玲く……あ、玲?」


そして芹霞は気づいたようで、


「ん? 何?」


僕はにっこりと微笑んだ。


目の前には、はにかんで上目遣いを寄越してくる、俯き加減の芹霞。


可愛い、僕の……僕だけの彼女。


"仮"なんてどうにかしてやる。


まずいな。


女の子と付き合うのは初めてではないのに、ドキドキが止まらない。


20歳にもなって、何だこのときめきは。


欲しくて堪らなかったモノを"僕のモノ"と言えるようになるのが、こんなに嬉しいことなのか。


願望が叶うということは、こんなに心弾むことなのか。


僕の彼女。僕の恋人。


どんなに先輩ぶって余裕めいた顔をしようとしていても、正直な僕の心臓がいつまで耐えられるか判らない。


それでも、これはあくまで仮の契約。


そこに僕の愛があっても、芹霞の愛はない。


交わされた契約は、"櫂を元に戻す"。


そこには一切、僕のことはない。