あひるの仔に天使の羽根を

 


腰で切り揃った直毛の黒髪。

きらきら輝く大きな目に、桜色の頬。

あどけなく笑う無邪気な顔。


4、5歳だろうか。


白いワンピースを着た、愛らしい少女。


少女は両手を叩いてきゃっきゃっと笑い、遠坂の背中に飛び乗ると、無遠慮に両足で跳ねた。


「うッ!?

ぎゃッ~!?

た、助けてくれ~」


「きゃははははは」


悲痛な叫びは、少女の愉快そうな元気な笑いにかき消されて。


どうもこの少女は、かなりのお転婆らしい。


そして、ぽかんと口を開けて見ている芹霞に気づいたようだ。


遠坂の頭を踏みつけ、芹霞の間近に近寄り、


「私、月(ユエ)っていうの。お姉ちゃんは?」


可憐な顔を傾げて芹霞に笑いかける。


「あたしはね、芹霞っていうの。神崎芹霞。よろしくね、月ちゃん」


芹霞は身を屈んで微笑み返すと、


「うん、よろしくね~、きゃははははは」


月は嬉しそうに芹霞に抱きついた。


「か、可愛い~」


芹霞は可愛いものを、すぐ抱き締める癖がある。


例外なくぎゅっと抱き締めた時、


「え!?」


芹霞の硬い声が響いた。


後ろ向きだったから表情は判らないが、驚愕しているようだ。


「……ふう」


玲からの諦観のような溜息。


何か玲は知っているのか。


「ユ、月ちゃん、ちょっと背中向いてくれる!?」


「いいよ~、きゃはははは」


月が喜んで背中を向ける。


「!!!」



背中にあったのは――