「"約束の地(カナン)"だよ」
玲が言った。
行き着いたのか、目的地に。
「ただ、僕たちが本当に行きたい場所からは離れている。いわばここは、"約束の地(カナン)"の僻地だ」
初めて来る地なのに、なぜだか玲はそう言い切った。
俺の怪訝な顔に、玲も俺の思考を読み取ったのだろう。
「その前に。ねえ、櫂。お前その傷どうしたのさ? お前だけだぞ、そんな怪我したのは。お前に限って不注意だとか体力不足だとか、そんなことはありえないだろう?
僕の結界が効かない今、そんな怪我ですんだお前の身体能力の高さと回復の速さは、脱帽ものだけれどさ」
玲が腕組みをしながらそう言った。
俺は思い出す。
水中の奇怪な肉の塊を。
しかも奇妙な白い翼までついていて。
天使とはいえない、
まるで悪魔の翼。
それらが俺と芹霞を取り囲んだ。
俺は芹霞を護るので必死で。
身動き取れない水中で、しかも俺は紫堂の力を使うことが出来ず。
あまりの無力さに唇噛み締めながら、逃走を試みた。
意識を失った芹霞を身体全体で庇う様に、水面目指して泳いで。
食いつかれる肌という肌。
引き千切られるその痛みに、俺は"人間"としてありったけ抵抗した。
俺の血が誘う、"それら"の仲間。
まるで恐怖映画のような、人食い魚(ピラニア)。
魚と解していいのか判らないけれど。
とにかく芹霞を傷つけてはいけないと、それだけしか考えていなくて。
視界が俺の流れる血で赤く染まった時――

