あひるの仔に天使の羽根を



「……櫂、お前……正気か?」


低く響く玲の声。


返答次第では"えげつねえ"を超越しそうな不穏な響きを感じた。


それを真っ向に受けた櫂も、須臾に向けていた甘々な眼差しを消して、酷く真剣な漆黒の瞳を、真っ直ぐに鳶色の瞳に合わせた。



「ああ、勿論。

俺は、須臾が好きだ」



「――…ッ!!!」



心臓に来る衝撃。



冗談ではない、真摯な櫂の面差しに

俺は怒りさえ覚えて。



「俺は……須臾と

一生を添い遂げたい」



「馬鹿言うなッ!!!」



櫂の胸倉に手をかけたのは、玲だった。



「芹霞はどうしたんだよ

――……芹霞はッッッ!!!」



こんな激昂した玲を見るのは初めてかも知れねえ。


尋常じゃねえ事態に、桜と俺が慌てて止めに入る。


「芹霞は幼馴染だ。それ以上はありえない」


俺の間近でなされた、男気ある断定。


喜んだのは須臾だけだ。


「そんなにあの方が好きなら、貴方に差しあげますわ、玲さん。煮るなり焼くなりお好きになさればいいでしょう」


俺の中で、ぷちんと何かが切れた。


「芹霞はモノじゃねえ!!! それに、主人面すんなッ!!!」


「同じようなものでしょう。

私だって…貴方達の主人になるんですから、ね、櫂?」


呼び捨てにまでしてやがんのかよ、この女!!!


しかも何言ってるんだ、櫂とどうかなれるなんてそんなこと――


「櫂!!! 何でそれに笑って頷くんだよ、なあ!!? 

俺の主人はお前であって、その女じゃねえ!!!」


玲を止めに入った俺が玲に止められて。


とりあえず、落ち着こうと各々椅子に座り直す。