――芹霞ちゃあああん。
あの時の可愛い櫂はいない。
――芹霞……好きだ。
あたしとずっと一緒に居た、
櫂はもう何処にも居ない。
あたしを好きだと言った櫂は
あたしから――
消え去ってしまった。
――俺が惚れた須臾を。
目の前に居るのは、熱愛する恋人を手に入れた美貌の男。
自分に相応しい美しさと家柄を持つ女性を手に入れた、紫堂財閥の御曹司。
あたしの知らない世界に居る男。
「須臾……"永遠"に愛している」
やがて。
切なげに、熱に浮かされたように掠れ響く声は。
あたしを絶望という奈落の底に沈めて。
あたしの世界から、音が消失した。
あたしの櫂。
あたしだけのものだった櫂。
憂いの含んだ眼差しは、酷く熱をもって須臾に向けられ。
本当に愛しくて堪らないという表情を向けていて。
須臾への愛以外の表情は浮かべていなくて。
櫂は、須臾に"永遠"を捧げた。
あたしとの"永遠"を捨ててしまった。
永遠がないあたしは。
幼馴染さえも拒まれたあたしは。
櫂にとって、無価値の存在になりはてた。

