あひるの仔に天使の羽根を



「………」



だけど状況は何も変わらなくて。


――俺が惚れた須臾を。


ひりひりした喉から、何も言葉が出てこない。


あたしの中から全てが静止したよう。


本当に驚いたら、呼吸すら出来ないって本当なんだ。


「ああ、芹霞。気づいたのか」


それはいつもの櫂の声だったけれど。


だけど何処か線を引いたように、他人じみていて。


しっかりと繋がられたままの2人の手。


「大変だったな、玲に感謝しろよ?」


それは煌や玲くんや桜ちゃんに向けている声よりも他人行儀な。


いつもの…あたしを心配しているような、そんな声色ではない。


"幼馴染"よりも、"仲間"よりも櫂は遠く離れて。


あんなに近くにいた櫂は、今別次元に居るように遠い。


――離れていよう?


確かにそう言ったのはあたしだけれど、

櫂が誰を好きになろうと櫂の勝手だろうけど、

こういう結末の為に、あたしは離れたわけではない。


恋愛というものが"永遠"を壊すと、あたしは知っていたはずだったのに。


願ったのは、"永遠"の理解と再確認。


近くに居すぎて判り合えないことを、

遠く離れて判り合うはずだった。


あたしは、こんな脆く断ち切れそうな関係になりたかった訳じゃない。