あひるの仔に天使の羽根を

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心身共にすっきりとした心地になったあたしは、部屋を出た。


この建物内の間取りはよく判らないけれど、廊下を歩いていたら、聞き慣れた複数の声色が聞こえて、目的地はすぐに見つかった。


「なあ……お前達も十分、判っていただろう?」


深みある透明な声。


聞き慣れた櫂の声。


いつも落ち着くそのトーンに、何故かあたしは酷く緊張した。


「ようやく叶ったんだ。……認めろよ」


意思故に堅く聞こえる櫂の声。


多分、部屋の中には皆揃っている。


あんなに櫂をたてる皆が、櫂と対立する図式なんてありえない。


部屋の中では何が起こっているのか。


どくん。


凄く嫌な予感はしたけれど。


感じる"異変"の方が気になって。


あたしがドアを開けるのと、


「俺が惚れた須臾を」


櫂が、隣に撓(しな)垂れる須臾の手をとって、指を絡め合うのが同時だった。


目の前に繋がれるその手。



「芹霞!!?」



煌と玲くんの声が聞こえる。


こちらに向けられる切れ長の目。


繋がれたままの須臾と櫂の手。



あたしは一度ドアを閉めて――


また開けた。