あひるの仔に天使の羽根を



あたしは未だ櫂に対し保護欲が強すぎて、須臾を傍に置く櫂の心を素直に受け止められない。


8年前のあたし達の、今よりももっと親密で濃密な…2人だけの世界を再び望んでくれたかと嬉しく思えば、それを即座に否定されて。


櫂があたしに何を望んでいるのか判らない。


今の櫂がよく判らない。


はっきりしているのは――

心が擦れ違っているという現実。


あたしが櫂を好きな程、櫂はあたしを好きじゃない。


櫂の"好き"は、きっとあたしが望むものじゃない。


櫂のあたしに対する熱は、8年前に冷めてしまったんだ。


だからあたしは、8年前の櫂の"好き"を二度と望めない。


――芹霞ちゃあああん。


あたしだけが全てだと抱きついてきた、あたしだけが絶対的だったあの櫂はもう居ない。


だとしたら、今のあたし達には何が残るんだろう。


世間一般的な、"幼馴染"という関係だけ。


その脆い関係がある故に、庶民と御曹司が一緒に居るだけ。


違う世界を持つ2人が、一緒にいる理由はただそれだけ。


あたしは、櫂と"決定的な別離"を迎えたくないんだ。


すれ違いが、別離に繋がるというのなら。


苛立ちが、すれ違いになるというのなら。


互いに苛立つくらいなら、顔を見ないでいた方がいい。


櫂が消去しても、あたしの思い出だけは穢したくないから。


そんな傷心のあたしの心に、煌が忍び入っているのが判る。


煌だって幼馴染だから。


8年前がなかったら。


一緒に暮らしている分、あたしは煌との思い出の方が多い。


煌には、物分かりのいい幼馴染をしなくてもいいから、気は楽だ。


苛立つ時はあるけれど、喧嘩すればお互いすっきり出来る。


あたしが煌の良い処も悪い処も許容出来るように、煌だってあたしの全てを許容しているはずだ。