「君は何で……? あ、答えたくなかったら無理に答えなくてもいいからね?」
しかし少女は微笑んで言った。
「私は元々此処に住んでいました。そんな時、生き別れた弟が脱走して私の処に駆け込んできて。神父達が連れ戻しに来た時、私は彼らに"怒って"しまったんです。母と姉は…信徒になってしまいましたから行方は判りません。
この地における"男"の扱いは最悪です。"男"は女を惑わす"蛇"として忌み嫌われ、女だけの街から隔離され、神父になるかの選択を迫られます」
「拒否したら?」
あたしの問いに、少女は頭を横に振った。
「判りません。"深淵(ビュトス)"という処に連行されるという噂は訊いたことがありますが、それがどんなものかは判りません……」
「"深淵(ビュトス)"は何処に?」
「"神格領域(ハリス)"と"中間領域(メリス)"の狭間だと聞いていますが、実際行ったことはないので…」
「狭間ったら、あのとげとげの建物か?」
煌が腕を組んで、あたしを見た。
「あの化け物……男だけを食ってたよな、確か」
また、寒気がすることを言い出した煌。
「食っていた? 化け物?」
玲くんの目が細められる。
「玲……お前、鬘落としたの気づいてたか?」
「鬘? あの地下道……ってお前もあそこ通ったのか?」
「俺、芹霞追いかけてきたんだけどさ、お前更に地下の方、潜ったか?」
「地下……って、あの瘴気漂う?」
「そうだ。その先に芹霞が居て……」
「なんだって!!?」
突然玲くんはあたしの肩を掴んで叫んだ。
「どうしてそんな処に居たの!!!」
荒げられたその声と、見開かれた鳶色の瞳にあたしは驚いて。
「な、何となく……?」
「……何でそんな処に芹霞を行かせるんだよ、櫂が居たんだろ!!?」
悲痛な声に、あたしは反射的に黙り込んだ。
それを察した玲くんは、それ以上を言及せず、
「……よかった、君が無事で」
そう切なげに笑うと、あたしを優しく抱きしめた。

