あひるの仔に天使の羽根を

 
街並みは少しずつ活気づいていく。


今にも壊れそうな長屋は、しっかりとした建造物となり、砂利道は舗装されたものとなる。


東京…とまではいかないけれど、見慣れた現代の街並みへと変わり、少しだけほっとする。


行き交う人々は、東京なら何処にでもいそうな普通の服を着て、薄く化粧をしている女性が……ああ、ここも女性ばかりか。


周囲から放たれる決して好意的とは言えない視線に、玲くんと煌は居心地悪そうにしていたが、この場では"罪"にはならないらしい。


「ここは鏡蛇聖会の影響を受けない、独立した街ですから捕まることはありませんが、それ故に崇拝の姿勢を見せねばならない矛盾した街です」


何とも色々突っ込み処の多い言葉だったが、"鏡蛇聖会"という単語の響きがまず気になってしまった。


「詳しくは刹那様にお聞きになった方がいいでしょう。私は信者ではないですから、上手く説明出来ません」



そうイクミが回答を避けた時、玲くんが静かに聞いた。


「ねえ…貧民窟に送られる"罪"って具体的にどんなもの?」


玲くんの問いに、少女は笑った。


「この地ではしてはいけない罪が7つあるんです。

"自惚れてはいけない"

"妬んではいけない"

"嘘をついてはいけない"

"恋をしてはいけない"

"怠けてはいけない"

"欲張ってはいけない"

"怒ってはいけない"」


「7つの大罪か……」


「何だそれ?」


煌があたしの疑問を代弁して訊いてくれた。


「ああ、基督教における悪となりえる7つの罪の源のことさ。"高慢""嫉妬""暴食""色欲""怠惰""強欲""憤怒"。

だけど君は"嘘をついてはいけない"を1つの罪として言ったよね。本来ならば"食べ過ぎてはいけない"のはずなんだけれど」


「そうなんですか? だけど此処では"嘘をつく"ことは重罪だと言われていますけれど……」


――ねえお姉さん。この地で重罪は"嘘をつくこと"なんだ。


あたしの胸が痛む。


それは咎の心臓なのか、傷なのか。